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広島高等裁判所岡山支部 昭和46年(行コ)1号 判決 1973年5月28日

倉敷市児島小川五丁目一番六六号

控訴人

児島税務署長

磯崎良夫

右指定代理人

門阪宗達

藤田敏雄

清水利夫

藤森義明

土肥一之

倉敷市児島田ノ口五丁目一三番三八号

被控訴人

三宅アキ

右訴訟代理人弁護士

黒田充治

名和駿吉

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が被控訴人に対してした昭和三八年分から昭和四〇年分までの所得税更正処分および過少申告加算税賦課処分につき、

(1)  昭和三八年分については更正処分中所得税額につき一〇〇万七一六〇円を超える部分を、

(2)  昭和三九年分については更正処分中所得税額につき三万二五五〇円を、賦課処分につき一三五〇円を各超える部分を

(3)  昭和四〇年分については更正処分につき所得税額一〇万三〇〇〇円を、賦課処分につき五一五〇円を各超える部分を

いずれも取消す。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて一〇分し、その一を控訴人のその余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一申立

一、控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張

一、被控訴人の請求原因および控訴人のこれに対する認否は、原判決記載のとおりであるから、原判決中当該部分を引用する。

二、控訴人の主張

(1)  被控訴人についてはホテル営業に関する帳簿書類が存在しないので、取引調査による酒の仕入数量から事業所得を算出したもので、この方法をとつたことは相当な場合である。

(2)  被控訴人の期間中の酒の仕入数量は別紙第一表A欄のとおりであるところ、二級酒(一・八リツトル入り)を別紙第二表のとおり「調味用」として調理用および調理人の飲用に供しているので、これを控除したものが売上数量となり、一本(一・八リツトル入り)から燗徳利一二本がとれるので、この割合で計算すると右第一表D欄の数字となり、燗徳利一本および二級酒(〇・三リツトル入り)一本の単価は同表E欄のとおりであるから酒の売上金額は同表F欄記載の額となる。

(3)  被控訴人の事業においての総売上金額は酒の売上金額に被控訴人方において訴外尾崎商事株式会社等五社が行つた飲食について算出した右各金額の以率一〇・一を乗じた別紙第三表B欄の額とするのが相当である。

(4)  被控訴人の営業利益は岡山市、福山市等の被控訴人と営業規模、業態の類似した同業者の平均営業利益率に当る別紙第四表のB欄記載率によるべきものであり、これにより計算すると、右利益は同表C欄の額となり、これから被控訴人営業に関する同表記載特別経費および専従者控除分を差引いた同表F欄記載の額が被控訴人の事業所得額となる。

(5)  被控訴人の雑所得は原判決別表第一〇のとおりである(これを引用する)。

(6)  被控訴人の係争期間中の所得額は右(4)、(5)の計で本件更正における所得額(裁決により修正されたもの)より多額である(ただし、昭和四〇年分について誤算のあることは別紙第一表備考記載のとおりである)ので、右更正は適法である。

三、控訴人の主張に対する被控訴人の認否および反論

(1)  訴控人の主張中、仕入二級酒の内「調味用」として控除した数量および仕入二級酒を総売上額の根拠とし、これを含めて営業利益を算出した部分の正当性を後記のとおり争い、他の部分については事実および計算方法の相当であることを認める。

(2)  調味用二級酒について夏季の使用数を少量としたことは実情に反する。

(3)  被控訴人方では仕入二級酒(一・八リツトル入り)は「調味用」として使用したことを除くと、殆んど営業に使用していない(その詳細は原判決摘示のとおりであるからこれ〔原判決六枚目裏(1)〕を引用する)。また仕入二級酒(〇・三リツトル入り)は建築現場での折詰の仕出しに付けて使用し、利益が薄いから、会席用に使用した他の酒と同様の利益率により利益を算出することは正当でない。

(4)  訴外下電ホテルで営業用に二級酒を充てているとしても、被控訴人経営の「雅叙園」とは客筋が相違し、劣つているので、同視することはできない。

四、被控訴人の反論に対する控訴人の主張

(1)  被控訴人が二級酒(一・八リツトル入り)を三宅芳一らの用に供したとの点は争う。尾崎商事株式会社が被控訴人方で行つた飲食についても本件四年間の二級酒とその他の酒との比率が三〇・八パーセントになり(請求書領収書によつたもの)、社用外のものは一般に低級の酒が使用され、その請求書等は交付、保存していない場合が多いことを考えると、被控訴人が営業用に右二級酒を使用しなかつたとはいえない。

(2)  二級酒(〇・三リツトル入り)に関する主張も争う。これも会席用に使用されるものであり、また同業者の営業利益率はこれを含めているものであるから、被控訴人の主張は失当である。

第三、証拠

次の点を付加するほか、原判決事実欄記載のとおりである(ただし原判決七枚目裏九行の「三八号証の一ないし七」とあるのを「三八号証の一ないし八」と訂正する。)からこれを引用する。

一、被控訴人

1  甲第四号証を提出。

2  当審証人三宅高雄、同神野忠利の各証言を援用。

3  後記乙号証中第三一号証の一ないし五、第三二、三三号証の各一・二、第三四号証の一ないし六、第三五号証の一・二、第四二号証の成立を認める(乙第三二、三三号証の各一・二、第三四号証の一ないし六、第三五号証の一・二については原本の存在をも認める。)がその余の成立は不知。

二、控訴人

1  乙第三一号証の一ないし五、第三二、三三号証の各一・二、第三四号の一ないし六、第三五号証の一・二、第三六号証、第三七号証ないし第三九号証の各一・二、第四〇号証、第四一号証の一・二、第四二号証を提出。

2  当審証人広光喜久蔵、同貞弘公彦、同藤森義明の各証言を援用。

3  甲第四七号証の成立を認める。

理由

一、被控訴人主張の請求原因事実(被控訴人の所得税申告、控訴人の更正および過少申告加算税賦課決定、被控訴人の異義申立、これに関する裁決)は当事者間に争いがない。

二、控訴人の右更正等の処分(裁判により修正されたもの)が正当として主張する根拠事実およびこれによる計算方法については、被控訴人の仕入二級酒をその総売上金額の基そとし、これを含めて営業利益を算出した部分および「調味用」として控除した数量の点を除き被控訴人が認めて争わないところであり、右計算方法は正当なものと解せられる。

三、そこで、右争点について検討した上、当事者間に争いない数額、計算方法に従い事業所得から総所得金額、課税所得額、税額の判断に及ぶこととする。

(1)  被控訴人は、仕入二級酒(一・八リツトル入り)につき三宅組、三宅芳江、三宅国広方に譲渡したものが大部分である、と主張し、原審証人三宅芳江、同白川計二、同三宅芳一、当審証人三宅高雄の各証言、原審における被控訴人本人尋問の結果はこれに照応し、被控訴人方の右二級酒に関し昭和三七年以前から昭和三八年末まで被控訴人の夫芳一の経営する土建業三宅組の常傭人夫が毎月五〇本位を使用し、昭和三七年以前から昭和四〇年四月まで飲食店を営んでいた前記芳一の妹三宅芳江に毎月六〇本位を贈与し、昭和三七年から三年間芳一の親類に当りミシン糸販売を営む三宅国広に盆、暮における取引先に対する贈答用として毎回一六〇本位を御値で分けていた、という部分がある。

(2)  しかし、成立に争いない乙第三一号証の二ないし五によれば、被控訴人の本件期間中における二級酒(一・八リツトル入り)の毎月の仕入数量は別紙第五表のとおりに認められ、毎月の数量がきわめて不規則であつて、前記証言等と対比するとき、昭和三八年末までは毎月一〇〇本以上を必要としていたというのと合致しないし、盆の前頃に特別に仕入量が多くなつていることも窺われず、調味用を除き昭和四〇年五月以降の仕入れの説明がないこととなる上、前記証言による合計数量より仕入数量の合計が少なくなる。

(3)  成立に争いない甲第一号証の一ないし九、第二号証の一ないし三、第三、四号証の各一ないし五、第五号証の一ないし六、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし八、第八号証の一ないし七、第九号証の一ないし六、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証の一ないし一三、第一三号証の一ないし六、第一四号証の一ないし一〇、第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし一〇、第一七号証の一ないし六、第一八号証の一ないし四、第一九号証の一ないし八、第二〇、二一号証の各一ないし三、第二二号証の一ないし六、第二三号証の一ないし四、第二四号証の一ないし一四、第二五号証の一ないし九、第二六号証の一ないし八、第二七号証の一ないし五、第二八号証の一ないし四、第二九号証の一ないし五、第三〇号証の一ないし七、第三一号証の一ないし一〇、第三二号、三三号証の各一ないし四、第三四号証の一ないし七、第三五号証の一ないし四、第三六号証の一ないし二三、第三七号証の一ないし七、第三八号証の一ないし八、第三九号証の一ないし一三、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一ないし一〇、第四二号証の一ないし八、第四三号証の一ないし六、第四四号証の一ないし三、第四五、四六号証の各一ないし七、乙第二号証の六ないし七五、第三三号証の二と原審証人三宅芳一の証言によれば、被控訴人方の上級の得意先に属する尾崎商事株式会社が被控訴人方で行つた会席においても二級酒が使用され(燗徳利計算で昭和三七年三二七本、昭和三八年一九五本、昭和三九年九一本、昭和四〇年はないことになつている計算書があり、その特級酒、一級酒の計に対する割合は順次約一〇六パーセント、四四パーセント、一七パーセント)になつている外、日本興業株式会社が昭和三七年六月四日に、石井織物が昭和三九年一〇月一七日に二級酒各八六本を同様に使用している(前者についての本件四年間を通じた使用の二級酒対特級、一級酒の比率は尾崎商事の同期間の比率と近似している)ことが認められる。

(4)  当審における証人広光喜久蔵、同貞弘公彦、同藤森義明の各証言およびこれにより成立の認められる乙第三六号証、第三七ないし第三九号証の各一、二、第四〇号証、第四一号証の一、二によれば、被控訴人経営の「雅叙園」と同様に国際観光旅館である倉敷市大畠所在の下電ホテルでは、昭和三七年から昭和四〇年までの仕入酒量が被控訴人より多量であるが、その間営業用に二級酒を相当使用しており、その特級酒、一級酒の計に対する年度別の割合は順次約四八パーセント、七四パーセント、二三パーセント、一八パーセントであることが認められる。

(5)  成立に争いない乙第三五号証の一、二によれば、三宅国広の所得税確定申告は昭和四一年分が所得三四万七三七四円に、昭和四二年分が四一万一五二二円になつており、昭和三七年から昭和三九年までの間の営業規模はそれ程でもなかつたことが窺われる。

(6)  以上(2)ないし(5)の事情からすると、(1)記載の証言等にある数量を全面的に採用することは因難であるとともに、右のような二級酒流用の事実が全くなく、右証言を事実無根のものとして排斥することもできないものであり、結局被控訴人仕入の特級酒、一級酒に対し、(3)認定の比率を控目にした、昭和三七年一〇〇パーセント、昭和三八第四〇パーセント、昭和三九年一五パーセントの割合による二級酒および昭和四〇年分については控訴人の認める「調味用」分を除いた数量(同年分は「調味用」分につき夏季の減量が行われておらず、三宅芳江分が四月まで関係するが、仕入数量からして控除すべきものとは認めがたい。)を少くとも営業用に使用したものと認めるのが相当である。

(7)  二級酒(〇・三リツトル入り)については成立に争いない乙第三二号証の二により、被控訴人が折詰弁当を作るときに、これに付されたことが認められ、又その性質上も会席用より折詰弁当用に供されることが多いことが窺われるが、控訴人の適用した平均営業利益率は被控訴人と営業規模、業態の類似した同業者の営業利益率を調査したものというのであるから、この内に右のような場合も含まれているものと解せられるもので、かりに折詰の場合の利益率が会席用に酒を使用した場合のそれと相違しているとしても、全体的の利益率には影響がないものというべきである。

(8)  そうすると酒の売上本数、売上金額および総売上額と営業利益は順次別紙第六表記載の数額のとおりとなり、これに経費、各種控除、雑所得等を加減し、所得税法および国税通則法の関係法条を適用すると、課税所得額、所得税額および過少申告加算税額は別紙第七表の該当欄記載の数額となる(昭和三七年分は課税所得額が更正におけるそれより多額であるから、所得税額以下の計算を省略する)。

四、以上の次第で、控訴人のした本件更正(裁決により修正されたもの)および賦課処分は、昭和三七年分は右認定の範囲内であるが、その他はいずれもこれを超えているので、右超過部分は違法として取消を免れない。

よつて、これと異なる原判決を右趣旨に変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻川利正 裁判官 永岡正毅 裁判官 熊谷絢子)

第一表

酒の仕入数量に基づいて計算した酒の売上金額算出表

<省略>

備考 控訴人昭和47年9月11日付準備書面中の昭和38年度2級酒1.8l仕入本数「1,453」売上本数「1,348」は誤記であり、酒売上金額の計「2,518,400」と昭和40年2級酒1.8lの売上金額は誤算と認められるので訂正した。

したがつて以後の数字も訂正の数字に従うこととし、その結果昭和40年分の事業所得金額ひいては課税所得金額は裁決額を下廻ることとなる。

第二表

調味用として使用された2級酒

<省略>

註 六月から八月までの夏季はビールの使用を考慮して、昭和三九年五月から仕入量が減少し、営業が低調となつているので、少量に認めたものである。

第三表

酒の売上金額を基とした総売上金額算出表

<省略>

第四表

同業者平均利益率による事業所得金額算出表

<省略>

摘要 特別経費は雇入費、建物の減価償却費、借入利子の割引料、料理飲食消費税の合計である。

第五表

被控訴人方の二級酒(一・八l入り)仕入数

<省略>

第六表

<省略>

第七表

<省略>

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